キズあとの種類

来院される患者様は、きずあとの種類には大きく分けて4種類あります。

①成熟瘢痕

擦り傷や切り傷、またはニキビや手術によるキズが治ると、キズあとが残ることがあります。一般的に深いキズほど目立つキズあととなり、美容的に問題となります。浅いキズでも面積が広いとやはり目立つキズあとになることがあります。最初は赤かったキズが、時間が経つにつれ肌色から白色に近づいていくのが普通の経過で、このようなキズあとを「成熟瘢痕」といいます。一般的に成熟瘢痕の治療は、単に見た目の問題ですので、健康保険を適用しての治療ができないことが多いです。

②肥厚性瘢痕

一方、キズができてからしばらくの間、キズが赤くみみずばれのように盛り上がることがあります。これを「肥厚性瘢痕」(図1B)といいます。深いキズは肥厚性瘢痕となることが多いですし、キズが関節や首など、体が動くと引っ張られる場所にできると、ほとんどのキズが肥厚性瘢痕となります。肥厚性瘢痕は炎症がなかなか引かないキズあと、と考えるとよろしいかと思います。関節のキズはいつでも引っ張られますので、炎症がその都度おこり、なかなか炎症が引きません。完全に炎症が引くまで、1年から5年くらいかかることもあります。

③ケロイド

患者様のほとんどは、肥厚性瘢痕をケロイドと勘違いされています。傷あとには、肥厚性瘢痕よりも炎症が強いものがあり、それを「ケロイド」といいます。ケロイドの発症には「ケロイド体質」の関与が大きく、遺伝することもあります。ケロイドは特に意識しないような小さなキズ、たとえばニキビや毛嚢炎などからもでき、何もない場所に突然できたように思えるものもあります。胸や肩、お腹(特に帝王切開をされた方の下腹部)、またBCG注射をされた腕、ピアスをあけた耳にできることもあります。幼少期からケロイドができる人や、高齢になってから初めてケロイドができる人もいます。その原因や悪化要因は様々です。このようなケロイドでも最近では、しっかり早期から治療すれば、完治できるようになりました。まずは、形成外科に相談してみてください。

 

④瘢痕拘縮

肥厚性瘢痕やケロイドを治療しないでほっておいた場合、また効果の弱い治療を続けてしまった場合、徐々に線維が硬くなり皮膚がひきつれ、関節が動きにくくなり引きつれを起こすことがあります。これを「瘢痕拘縮」といいます。瘢痕拘縮を生じてしまうと、柔らかくなるまでに相当な時間がかかりますので、手術をすることも考えます。

 

肥厚性瘢痕やケロイドの原因

成熟瘢痕、肥厚性瘢痕、ケロイド、瘢痕拘縮という状態は、局所的あるいは全身的な因子のバランスでおこります。いろいろな悪条件が重なるとケロイドや瘢痕拘縮という状態になると考えられます。

(グラフ引用;一般社団法人 日本創傷外科学会HPより)

 

1.局所的な問題

1)傷の深さ
肥厚性瘢痕やケロイドは、熱傷や外傷、毛のう炎、手術創やBCG、ピアス穴などからできます。皮膚は表皮と真皮から出来ていますが、この真皮の深い部分(真皮網状層)にキズができると発症します。ニキビでも皮膚の表面近くで生じた浅いものではケロイドになりませんが、毛穴の毛根近くで生じた深いものではケロイドになります。

 

2)傷の治り方
キズの治り方に時間がかかると、肥厚性瘢痕やケロイドができるリスクが高くなります。浅いキズでも、痒みで掻いてしまったり、関節などにキズがあって、動くことにより毎日引っ張られるといった環境であれば、炎症が深いところまで広がり、肥厚性瘢痕やケロイドを発症することもあります。例えばBCGの注射ではいわゆる「ケロイド体質」がなくても注射した場所が何ヶ月も赤く腫れることがあります。またピアスでは着脱を繰り返す度に膿が出ることがあります。これらは肥厚性瘢痕やケロイド発症のリスクになります。

 

3)外力が加わる場合
以前から、肥厚性瘢痕やケロイドは、体の正中や可動部分、前胸部や肩甲部、下腹部など日常動作で頻繁に皮膚が引っ張られる場所に多いことが知られてきました。一方、頭頂部やすねからはめったに肥厚性瘢痕やケロイドができません。これらの部位は皮膚をつまもうとしても直下に骨があるため難しく、体の動きに伴って皮膚が引っ張られることがない場所です。さらに上眼瞼から肥厚性瘢痕やケロイドが発生することもまれです。なぜなら皮膚はゆるんだ状態で、緊張が生じないためと考えられます。

 

2.全身的な問題(ケロイド体質や悪化因子)

1)妊娠・女性ホルモン
肥厚性瘢痕やケロイドは妊娠で悪化することあります。血管腫も同様に妊娠時に悪化することが知られており、局所の血流増加や、妊娠中に増加するエストロゲン・プロゲステロンなどの性ホルモンによる血管拡張作用あるいは毛細血管の増殖が原因と考えられています。また肥厚性瘢痕やケロイドの患者さんが子宮筋腫や子宮内膜症で偽閉経療法を受けると、その炎症が軽減し、痒みなどの自覚症状だけでなく隆起や赤さなどの他覚症状も軽快して成熟瘢痕になっていきます。

 

2)高血圧
高血圧の患者さんは、動脈硬化で血管抵抗が増強し、水の出るホースを指でつまんだように血液の流れが速くなります。よって、肥厚性瘢痕やケロイドが悪化すると考えられています。

 

3)全身の炎症
大きなけがややけどなどでは、全身に強い炎症がおこります。このとき、全身的な炎症反応が生じます。このような状態では、ふつう肥厚性瘢痕やケロイドにならない傷でも、肥厚性瘢痕やケロイドになることがあります。

 

4)過度の飲酒や運動
飲酒や入浴、運動後に肥厚性瘢痕やケロイドの痛みを訴える患者さんは多いです。これには血液の流れが速くなることなどが関係しています。よって、過度の飲酒や、キズに力が加わるような運動は避けることが必要です。

 

3.遺伝的な問題

まだはっきりとしたことはわかりませんが、母親と子がケロイド体質である、ということも多く見受けられます。

 

きずあとの治療法

大きく分けて

・手術しない方法(内服、外用、ステロイドテープ治療、ステロイド局所注射治療、レーザー治療)

・手術をする方法+術後の放射線療法

の方法があります。

「瘢痕拘縮」は、肥厚性瘢痕やケロイドが関節部や首など皮膚が引っ張られる場所にできた場合に、治療しないで放っておいた場合、また効果の少ない治療を続けた結果、引きつれができてしまった状態です。瘢痕拘縮を生じてしまうと、手術を選択しなければならない状況が多いです。

早めに効果的な治療を行っていくことが大切です。

手術しない方法

  • 安静・圧迫

    肥厚性瘢痕やケロイドは、日常動作で皮膚が引っ張られる部位にできて悪化する傾向が強いので、キズあとと周囲の皮膚を固定してしまう方法が有効です。シリコーンテープや医療用の紙テープ(サージカルテープ)、シリコーンジェルシートやポリエチレンジェルシート、また包帯や腹帯、サポーターやガーメント、コルセットなどでも固定も有効です。これらも他の治療法と組み合わせて行うべき治療の1つです。

 

  • 飲み薬

    飲み薬ではトラニラスト(リザベン®)が有効であるとされています。これは抗アレルギー剤であり、肥厚性瘢痕やケロイドの組織中にある各種炎症細胞が出す化学伝達物質を抑制することにより、痒みをはじめとする自覚症状を抑え、さらには病変自体を沈静化させると考えられているものです。また漢方薬の柴苓湯が使われることもあります。これらの効果は強くないので、他の治療法と合わせて用いられます。

 

  • 塗り薬

    塗り薬として効果のあるものにはいくつかあります。炎症を抑える目的での、アンテベート®をはじめとするステロイド軟膏・クリームや、非ステロイド系抗炎症剤、ヘパリン類用物質であるヒルドイドソフト軟膏®などです。炎症が軽度な肥厚性瘢痕は治癒する可能性がありますが、ケロイドは塗り薬だけで治療することは難しいのが現状です。

 

  • ステロイド含有テープ

    1日1回交換するタイプのステロイドのテープ(ドレニゾンテープ®やエクラー®プラスター)が用いられます。特にエクラー®プラスターの効果は高く、皮膚が厚い大人には大変有効です。皮膚の薄い小児や高齢者にはドレニゾン®テープでも十分な効果が得られます。かぶれを生じなければ長く使用することで肥厚性瘢痕やケロイドの盛り上がりが改善します。

 

  • 注射

    ステロイド(ケナコルト®)を注射することがあります。赤みや盛り上がり、痛みや痒みは速やかに軽減します。効果が強すぎると凹んだ瘢痕になることもあります。塗り薬と同じく、ステロイドであるため、周囲の皮膚が薄くなって毛細血管が拡張することも欠点です。また硬い瘢痕の中に注射すると痛みが出るため、痛くない注射・効果的な注射には熟練の技術が必要です。女性ではステロイドの影響で生理不順が生じることもあるため注意が必要です。

 

  • 自費診療によるレーザーやダーマペン4

    ケロイドの治療にレーザーが有効です。代表的なものはNd:YAGレーザーですが、現在では健康保険を適用しての治療はできません。皮膚に細かい穴をあけて、皮膚の再生を促す、ダーマペンが使用できる場合があります。手術ではこれ以上改善させるのが難しい、と考えられるキズが適応となります。キズを完全に消すことができませんが、目立たなくできる可能性があります。普通は1か月に1度レーザーをあて、複数回照射すると効果が出ます。レーザーをあてた後、しばらく直射日光を避けなければなりません。

 

→詳しくはこちらのダーマペン4のページをご覧ください。

 

手術する方法

肥厚性瘢痕やケロイドは、手術しない方法で軽快する場合も多いですが、ひきつれ(瘢痕拘縮)の原因などになった場合は手術の適応となります。しかし、今までは炎症の強いケロイドに関しては安易に手術してはならないとされてきました。ケロイドは再発しやすいため、単に手術するだけでは前より大きなものになってしまうことがあるためです。形成外科では、できる限り再発しないような縫い方の工夫をし、さらに術後の放射線治療を行って、完治させることができるようになりました。

 

  • 切除縫合法

手術を行った際にはキズを縫合しなければなりませんが、最も大切なことは、見た目をきれいに縫うことではなく、ケロイドが再発しないように縫うことです。ケロイドは、引っ張られる力がかかるキズにできやすいと考えられるため、引っ張られることを前提に、キズの方向を考え、あらかじめ盛り上げて、丁寧に縫うのがポイントです。深いところでしっかり縫って、肥厚性瘢痕やケロイドができる真皮に力がかからないように工夫します。真皮を縫う前に、創縁がお互いに自然にくっついている状況をつくることが大切です。「瘢痕拘縮」は、関節部や首など皮膚が引っ張られる場所にできるので、引っ張られる方向に力がかからないように、向きを変えたり、ジグザグに縫ったりして(Z形成術やW形成術)引きつれを解除します(瘢痕拘縮形成術)。時には近くの皮膚をパズルのように切って組み合わせる、局所皮弁術が用いられることもあります。

 

 

  • 術後放射線治療

    大きなケロイドの術後には放射線治療を行うことがあります。手術後のキズが肥厚性瘢痕やケロイドになることを予防する効果があります。しかし、副作用として周囲の正常皮膚への障害、将来的にその部位の発がんのリスクが増える可能性は否定できません。しかし、最近のケロイド治療における放射線治療では、線量や照射方法が改善されていますので、発がんのリスクは最小限に抑えることができています。

 

手術の後療法について
肥厚性瘢痕やケロイドは、外科的治療および放射線治療で一度は完治したとしても、術後から局所の皮膚伸展を繰り返していれば、やはり再発することがあります。よって、抜糸した後もシリコーンテープやジェルシートで固定したり、ステロイドのテープを用いることで炎症を消失させることが大切です。

しおざわクリニック