やけど
熱傷(やけど)について
熱傷(やけど)は日常生活において最も多い外傷の一つです。受傷した部位と大きさ(面積)、損傷の深さにより、軽症、中等度症、重症に分類されます。軽症・中等度症の場合でも、治った傷跡(瘢痕)がケロイド、拘縮(引きつれ)などの後遺症を起こすこともありますので注意が必要です。
原因としては、やかんやポットの湯、コーヒーやお茶、てんぷら油、最近ではカップ麺の湯などによる高温の液体によるものが最も多い原因です。次いで熱性固体(ストーブやアイロンなど)の接触によるものです。最近では、電気炊飯器やポットの水蒸気の噴出し口や、ファンヒータの吹き出し口に触れてしまう幼児の熱傷が増えておりますので、小さいお子さんがいらっしゃるご家庭では気をつけてください。湯気は、熱湯以上に温度が高いので、特に注意が必要です。
熱傷の重症度判定について
やけどの重症度は主に皮膚損傷をうけた深さとその面積によって判定されます。
1) 熱傷の深さ
日本熱傷学会では、皮膚損傷の深さを3つに分類しています。
I度
赤みのみのことが多く、表皮にとどまる熱傷で、皮膚の発赤と浮腫(むくみ)が生じて、強い痛みを伴いますが、通常2~3日で自然に治癒し、瘢痕(傷跡)などの後遺症は残りません。
II度
表皮より深い真皮までの熱傷で、水疱(水ぶくれ)が出来るのが特徴です。Ⅱ度熱傷は「浅達性」と「深達性」にわけられます。
浅達性II度熱傷
真皮中層までの熱傷で、皮膚付属器(毛根、汗腺、皮脂腺など)は破壊されず、知覚神経終末も障害を受けませんので鋭い疼痛を伴います。通常、1~2週間で瘢痕を残さず治癒します。
深達性II度熱傷
真皮下層までの熱傷で、皮膚付属器も損傷をうけますので、浅達性II度熱傷より鈍い疼痛です。治癒までに3~4週間かかり、瘢痕が残ります。
Ⅲ度熱傷
皮膚全層、さらに皮下組織まで損傷が及びます。水疱は形成されず、受傷部位は羊皮紙様を呈します。知覚神経まで侵されているので痛みはほとんどなく、針で刺しても感じません。通常1ヶ月以上かかって治癒しますが、瘢痕が残ります。手のひら以上の面積ですと手術(皮膚移植)が必要となります。
2)熱傷の面積
自分の手のひらの大きさが体表面全体の1%に相当します。II度熱傷が10個分の大きさ以上(10%以上)、III度熱傷が2個分以上(2%)ありますと、入院治療の適応となります。
初期の処置について
自身ですぐにできることは、直ちにアイスパックや氷嚢で冷却することが重要です。これにより熱による組織損傷が深くなることを防ぐだけでなく、受傷部位の炎症を押さえ痛みを緩和するが出来ます。冷却する時間は20分位行い、水疱のある場合は出来るだけ破らないようにしてください。II度熱傷であれば、大抵の場合、消毒と軟膏治療で治りますが、ひとたび細菌感染をおこしますと、損傷は深くなり治癒までに時間がかかるだけでなく、その後、瘢痕やケロイド、拘縮などの後遺症を招くことになります。例え小範囲の熱傷であっても、形成外科専門医である当院の診察を受けてください。
小児の熱傷
熱傷は、小児が受傷する外傷のなかでも最も頻度が高いものの一つです。
その治療にあたっては、成人ちは違う、全身的にも局所的にも小児としての生理学的特徴を考慮したうえで治療を進めることが大切です。初期治療においては、熱傷面積の計算や輸液の仕方などに、成人と異なったスケールを使用するとこになります。小児熱傷では成長に伴って生じる四肢や頚部の瘢痕拘縮(ひきつれ)などの諸問題にも関わることが多く、適切な処置を継続しなければなりません。たとえば、手の熱傷では、熱傷が治癒した後に、瘢痕により指の曲げ伸ばしが不自由になることが多く、スプリント療法を行ったり、二次的に形成外科的な手術必要になったりします。形成外科ではこれらをふまえて、長期的計画を立て、小児熱傷の初期治療から瘢痕拘縮などの長期的な治療までを一貫して行っています。
やけどの起こる状況
小児の熱傷事故のほとんどは、各年代における特有な受傷パターンがあります。
1~3歳頃は色々な事に好奇心が増す時期であり、この年代の小児の身長と家庭用テーブルの高さが関連し、小児が顔面から頚部、前胸部にかけて熱い液体(お茶、コーヒー、みそ汁、カップラーメンなど)をかぶって受傷する熱傷が多くみらます。これは、この年代特有の受傷機序です。例えば、炊飯器や加湿器の湯気による蒸気熱傷、温風ヒーターの温風による熱傷など、以前には予想も出来なかった熱傷事故も増加しています。これらを防止するために、このような製品の危険性に対して、大人が日ごろから認識しておくことが大切です。小児熱傷の最良の治療は、事故発生の予防といえます。
広範囲熱傷
広範囲熱傷は、まずクリニックで診察することはほとんどありません。なぜならば、熱傷(やけど)を受けることによって全身を流れている血液の中の血漿という成分が減少し、血圧が下がり、直ちに点滴注射で多くの水分を投与しなければならないような熱傷を言います。一般的には熱傷した広さが、その人の体の全表面積(熱傷体表面積)の15~20%以上のものです。それは成人で鼠径部(太ももの付け根)からつま先までの広さ以上の熱傷です。
熱傷患者の重症度を左右するものとしては以下の事柄が挙げられます。
(1) 熱傷の広さ
体表面積のうち、何%がやけどを負っているのか計算する必要があります。当然のことですが、熱傷の面積が広いほど重傷となります。簡便な計算方法の一つに9の法則というのがあります。頭が9%、身体の前面が9の2倍の18%、後面も同様18%、片上肢9%の両方で18%、下肢は片方で18% 両方で36%というように計算します。幼児・小児の場合は、頭の部分をより大きく評価した5の法則を用います。
(2) 深度
同じ熱傷面積でも、熱傷の程度が深いほど重傷となります。
皮膚の厚さの半分程度のやけどをII度の熱傷、皮膚の厚さ全部あるいはそれ以上深くまでやけどしたものをIII度熱傷といいます。同じ熱傷面積であればIII度熱傷はII度熱傷の倍の重症度があると判定されます。
(3) 年齢
幼小児は成人よりも抵抗力が弱く、容易に血圧が下がったりしますので、熱傷面積が10%以上になると早急に点滴注射など始めなければなりません。一方、高齢者も加齢とともに死亡率は高くなります。
(4) 気道損傷
家の火事など火による熱傷の場合、熱風や煙、有毒ガスを吸い込む事によって、のどや気管、肺などに損傷を与え、息が出来なくなったり肺炎などを引き起こします。
(5) 内科の病気
内科の病気などをしている人、したことがある人は重症になる傾向があります。
(6) 治療開始までの時間
熱傷を負ってから点滴治療などが開始されるまでの時間が長くなればなる程、ひどい合併症を引き起こしたり予後も悪くなりますので、少しでも早い専門医での治療が必要となります。